ガンディーはなぜカースト制度を否定しなかったのか

インド史

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書評:インド人と日本人


本を読みました。

グルチャラン・ダス。インドの作家、戯曲家、歴史家、哲学者、教育者でありハーバード大卒のビジネスマン。「インドの福澤諭吉」と呼ばれる氏が、今後のインド人との働き方、稼ぎ方、付き合い方を明かす。

アマゾンより引用


時間がない人のためにザザーっとした内容を言うと、
インド在住のインド人ビジネスマンが俯瞰的な視点でインドを見て、日本人との対比を主軸にまとめた本と言ったところだろうか。
前半はインドの現在や歴史など国の紹介で、後半がインド人ビジネスマンから見た日本人とインド人の比較という構成。

正直タイトルほど日本人とインド人徹底比較!って感じでもなかったが個人的に刺さるところが何点かあったのでこの場を借りてご紹介したい。

著者について

引用:Wikipedia

グルチャラン・ダス(Gurcharan・Das)

著述家、経営コンサルタント(特に企業のグローバル戦略)。

ハーバード大学哲学・政治学科卒業、ハーバード・ビジネス・スクールで学ぶ。

リチャードソン・ヒンドゥースタンの会長兼最高経営責任者(CEO)、プロクター&ギャンブル(P&G)インディアのCEO、P&G本部の経営幹部(戦略企画担当)を務めた。

アマゾンより引用


この手の本は作者がどんな人かってのはマジで重要。
日本・インド、どちらかに寄りすぎてたらダメ。
主張が偏っている場合がある。

その点このダスさん(本の中での作者の呼称)は13才から米国で暮らし、大学卒業と同時にインドに戻ってからは世界中飛び回って仕事をしていたからか俯瞰的にインドのことを見ている印象。
(正直日本や日本人のことは深く知らないと思われる)

出自がパンジャブ州の中流家庭ということもあってご本人曰くカーストへの帰属意識が低いらしい。
パンジャブ州はパキスタンとの国境にあり、古代ヴェーダの時代からカイバル峠を越えてアーリア人や他民族が進入してきた歴史があるし、なおかつ都市で一定水準の暮らしをしていたからとのこと。

私も田舎の出身だから分かるけど確かに田舎に行けば行くほど保守的な考え方の人は都市部より多い。

ガンディーはなぜカースト制度を否定しなかったのか

マハトマ・ガンディー:Wikipediaより

今日のメインテーマはコレ。

インド独立の父として知られるガンディーだけれども、カーストにすら属せない不可触民ダリトを神の子(ハリジャン)と呼び、差別撤廃運動を展開したのも有名な話。

無知ながらいつも感じていたことがある。

直行直帰の店主

差別無くしたいならカースト制度自体を否定したら良いのに…。


でもガンディーはカースト制度(ヴァルナ)を根本からは否定しなかった。

なぜか。
その答えのヒントがこの本にあった。

インド人はコミュニティーをめっちゃ大事にする

ヴァルナとジャーティ

日本人でもカースト制度の4つの階級は聞いたことあるやろう。

カーストは正確にはヴァルナと言う。(本記事内ではカーストと呼ぶ)
祭祀を司るバラモンをピラミッドの頂点にして、クシャトリヤ(貴族・武士)、ヴァイシャ(商人・市民)、シュードラ(奴隷・労働者)と続く。
そしてこの4つの階級を更に細分化した職業集団のようなものがあり、ジャーティという。
ジャーティは3,000以上あるとも言われ、インド人はむしろこっちを重視している。

基本的に同じジャーティの人としか食事も結婚もしない。
そこには家族と同等かそれ以上の絆のようなものがある。

そもそもなぜインドにカーストのような身分制度が出来たのか?

出典:History of world

インドの地図を見るとまるで要塞のように国土北方を山脈が囲んでいるのが分かる。
一度進入するとなかなか出られないことからインド亜大陸は漁網(フィッシングネット)と呼ばれている。

古代ヴェーダの時代に進入してきたアーリア人に始まり、様々な民族が移動して住み着いたインドには多種多様な人々が暮らしている。
民族も宗教も言語も違う集団が共存することを可能にした社会制度がカーストという考え方を著者は支持している。

そしてインドは他民族に同化を迫らない。

これはビリヤニの記事でも書いたけど、インドには都市によってイスラム教の影響が色濃く残る街など地域によって特色が別れている。
インドにヒンドゥー教徒以外にも2億人のイスラム教徒や、キリスト教徒、シク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒などが今でも存在するのはコミュニティを大事にするインドの特徴やろう。
他者を尊重し、多様性を重視する。

だからガンディーはイスラムとヒンドゥーで国を分けるのではなく、インド亜大陸全体での独立にこだわった。
その願い叶わずパキスタンとインドに別れて戦争までしちゃったんだけれども。

これが中国ならこうはならん。
中国はインドと真逆で民族の同化を迫る国。
全体主義の典型。
ウイグルの悲惨な現状には本当に胸が痛む。

ジャーティは一生変えられないコミュニティ

本書によるとあるジャーティに属する人が裕福になった場合、自分のカーストをヴァイシャ→クシャトリヤというように勝手に格上げする場合があるらしい。
それぐらいカースト自体はあやふやなものなので、実際に制度として機能しているのはカーストより職業別のコミュニティであるジャーティの方だと主張している。

確かに10億人以上いるヒンドゥー教徒のカーストを戸籍のように管理している制度があるとも思えないし、そんなもんなのかも。
ただし、カーストは変えてもジャーティは変えないというか変えられない。

ジャーティはコミュニティ内での自治と互助機能も有している。
だから歴代のイスラムのムガル帝国もイギリスも統治する上でジャーティーを利用したし、ガンディーもジャーティがなくなればインド全体がバラバラになると考えんたんじゃなかろうか。

まとめ

糸車を回すガンディー 出典:Wikipedia

本の内容がカーストとジャーティがメインのような印象を与える記事だが決してそんなことはない。
他にもモディ政権に対する痛烈な批判や、日本人ビジネスマンの弱腰を指摘するなどハッとさせられる内容が多い。

て、ことで今日のまとめいきます。

ガンディーはなぜカースト制度を否定しなかったのか(考察)
  • インド人はコミュニティを超大事にする
    • カースト制度とそれぞれに紐づく職業別のジャーティ
    • インド人が大事にしているのはカーストよりもジャーティ
  • ジャーティは一生変えられないコミュニティ
    • 自治と互助機能を持つ
    • 結婚は同じジャーティー同士が基本、食事もなるべく同一ジャーティー内でとる。
  • そもそもなぜインドにカーストがあるのか?
    • 様々な民族、宗教、言語が入り交じるインドでは、共存共栄の仕組みとしてカーストが必要だった
    • ムガル帝国もイギリスも統治のためにカーストを利用した
    • ガンディーは身分制度による差別は撤廃しようとしたが、ジャーティ制度までは否定しなかった。

最後にもう一つだけ本の中で印象的だった一文をご紹介。
ガンディは西洋の科学技術を受け入れることが自国の文化や伝統を破壊するのではないかという疑念を持っていたという。
急速に発展した中国は古来からの文化がなくなりつつある。
インドは自国の文化を守りながらゆっくりと成長すれば良い。

ムガル帝国やイギリスに自分たちのアイデンティティを否定されてきた歴史があるだけにカレーポリスのようなものにも敏感になったのかもしれん。

 

今日はこの辺で。
ではまた!



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この記事を書いた人

福岡の神出鬼没完全不定期間借りカレー店「直行直帰」の店主
かつてカップラーメンを料理と呼んでいた男が綴る日々のカレー・インド料理研究の記録、間借り出店情報、インドにまつわることを吐き出します。
実態はイエスマンになれない社会不適合なサラリーマン。

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