どーも!直行直帰の店主です。
インドのモディ首相後編の記事です。
今回は首相になってからの主要政策と外交政策を見ていきましょう。
日本じゃ考えられないようなビックリ改革も…
一体どんな政策なのでしょうか?
前回の記事はコチラ⇓
高額紙幣が一夜にして紙クズに…
あなたはもし日本でこんなことが起こったらどうしますか?
明日から五千円札と一万円札を廃止しまーす!
ビックリしてパニックになりますよね。
でも実際にモディはこれをやったんです。
2016年11月8日
この日はアメリカ大統領選挙の投票日で、
世界がその行く末を固唾を呑んで見守っている中
夜の8時モディ首相がテレビ演説を始めます。
今晩0時をもって1000ルピー紙幣と500ルピー紙幣を廃止する!
1000ルピー紙幣は当時インドで最も高額な紙幣でした。
(日本で言えば一万円札)
廃止される紙幣で当時の発行済紙幣価値の86%を占めていました。
それが明日からもう使えなくなると聞いたら13億人総パニック状態です。
廃止する紙幣は12月30日まで銀行への入金もしくは新紙幣の交換可能、
ということも併せて発表されました。
銀行は大行列
当然国民は皆街の銀行に殺到します。
街の銀行はどこも大行列が出来ました。
なぜこのようなことを?
大義名分は汚職や脱税、非合法組織などが不正に溜め込んでいるタンス預金をあぶり出すことにあった。
世間的には無いことになっているお金を銀行に預けさせることで、
不正資金を取り締まることが目的だと発表されました。
しかしこういった不正資金というのは社会の歪みから発生するものであって、
高額紙幣を廃止したところで汚職や脱税、反社会的勢力が消えてなくなるわけではありません。
実際高額紙幣の廃止は不正資金の撲滅に効果がなかったことが2年後に政府から発表されます。
では何の意味のない政策だったかというとそういうわけでもありません。
キャッシュレス化のキッカケとして
それまでのインドは現金決済が主流で、キャッシュレス決済はあまり浸透していませんでした。
しかし高額紙幣を廃止し、結果的に現金保有が制限されたことでキャッシュレス化を進めるキッカケになったのです。
実はモディの政策の一つとしてデジタルインディアというものがあり、
国全体のデジタル化を強化しています。
高額紙幣の廃止目的が闇資金の撲滅にあるというのは実は表向きの理由で、
真の目的はキャッシュレス化の促進だったとも言われています。
(このときはあまり定着しなかったようです。)
リーダーシップの発揮
13億を超える国民、29の州、7つの連邦直轄地から構成されるインド。
もともとはバラバラだった国が一つになったこともあり、
州が違えば規制や慣習、言語も違います。
国全体を一つにまとめるには各州にある程度の自治権を与える必要があります。
(インド各州の自治権はアメリカのそれより強いと言われています。)
しかし紙幣はインド全体で統一されたものであるため、
中央政府の意向で改革を行うことができます。
「明日から高額紙幣を廃止する!」
という宣言することは言い換えれば
これからは中央政府主導で
ガンガン改革していくよ!
というものだったようにも思えます。
高い指導力を発揮出来なければ各州も13億人の国民も付いてきませんからね。
クリーン・インディア(スワッチ・バーラト)
5年間で1億5000万世帯にトイレを設置して、
野外排泄をゼロにします!
2014年10月2日にモディはこう宣言します。
この日はインド独立の父であるマハトマ・ガンディーの誕生日。
カースト最下層で排泄物処理を行うダリットの地位向上に努めた人物です。
なぜインドにトイレが必要なのか?
話は2014年8月15日の独立記念日での演説に遡ります。
当時はモディが首相に就任して間もなく政策方針演説の意味合いもあったことから
聴衆は皆モディの発言に耳を傾けていました。
21世紀だというのに農村では女性用のトイレがないことも珍しくない。
彼女らは用を足すために暗くなる夜まで待たなければならない。
精神的にも衛生的にも問題だ。
(中略)一国の首相がトイレ設置の必要性や清潔さの重要性を訴えているのを耳にしてショックを受けているかもしれないが、自分は貧しい家の出身で、貧困とはどういうものかをこの目で見てきた。
『モディが変えるインド』白水社より引用
だからこそ確信を持っていうのだ。
ユニセフの2015年の推計では、インドの人口13億人のうち農村部を中心に5億人以上が野外排泄を行っていると言われています。
その原因として下水道などのインフラが農村部まで整備されていないこと等があります。
トイレの普及は汚職の過去がなく掃除好きで「清潔な政治家」であるモディにとって大切なイメージ戦略でもありました。
インド政府はトイレ設置のために1世帯あたり1万2000ルピー(約1万9000円)の補助金を出し、インド各州の「トイレ普及状況」を数値化して競争心を煽ります。
トイレが設置されるとその村や町などの集落が野外排泄ゼロ宣言を行い、
その数によってゼロ宣言達成率を一目でわかるようにするといった仕組みです。
5年後、野外排泄ゼロを宣言
2014年の宣言からちょうど5年後、
モディは野外排泄ゼロを宣言しました。
5年間で6億人がトイレを使えるようになりました。
女性たちは用を足すために暗くなるまで待つ必要もありません!
さらに「トイレの普及によって、保健医療支出は減少している。」と
クリーン・インディア(スワッチ・バーラト)の成功をアピールします。
しかし実態は…
本当にたった5年で野外排泄ゼロになったの?
すんなり行き過ぎじゃない?
皆さんも感じたと思います。
その通り。
今でもインドでは野外排泄の慣習は残っています。
ではなぜモディは野外排泄ゼロを宣言したのでしょうか?
理由は大きく分けて2つあります。
理由① トイレは設置したけど使っていない
野外排泄ゼロはトイレを設置した世帯数を元に各自治体が中央政府に報告しているものであり、実際に使われているかどうかは関係ありません。
各州は中央政府に良い報告がしたいので積極的にトイレを設置しますが、
「ただトイレをつくっただけ」
ではなぜ新設されたトイレを使ったのに使わないのか?
理由の一つにヒンドゥー教の不浄の概念があります。
排泄物を溜め込む(下水道が通っていない農村部ではくみ取り式が多い)トイレが不浄なものなので、家の敷地内に設置するなど考えられないというわけです。
理由② そもそもトイレを設置していない
今までの記事でも見てきたようにインドでは行政の汚職が当然のように横行しています。
補助金目当てに嘘の報告をしてお金を騙し取り、書類上のみ存在するペーパートイレが1つの州だけで何十万もあると言われています。
スワッチ・バーラトの裏側が書かれた「13億人のトイレ」が面白い
このあたりの話は「13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)」という本が面白いです。
現代のインドをトイレという独特な切り口で描写しています。
著者の佐藤大介さんは共同通信の記者で、インドの農村部に取材に行かれたときの様子も書かれています。
カースト上層にいるヒンドゥー教の指導者的な立場の人に
「なぜカースト最下層の人々が排泄物処理の仕事を担わないといけないのか?」
とガンガン突っ込んでいくシーンが印象的でした。
インドのリアルな実態が見えてくる良書です。
興味のある方は是非!
モディの外交政策
インドは独立以降長らく非同盟主義を貫いてきました。
東西冷戦下でも米英を中心とする資本主義国家側でもなく、かといってロシア・中国のような社会主義国家側でもありませんでした。
21世紀に入り時代は米中対立の時代。
アメリカがこれまで通り世界経済のトップに君臨するのか、それとも中国が覇権を奪うのか。
それは世界第2位の人口を持ち、まだまだ成長の余地があるインドの動向次第かもしれません。
日本、アメリカ、中国との関係をそれぞれ見ていきましょう。
日本との関係
2014年8月30日、モディが首相になって2番目に訪れた国が日本でした。
2014年5月の首相就任から3ヶ月後のことです。
実はモディ、グジャラート州首相時代の2007年4月と2012年7月にも日本を訪れていて、これが3回目の訪問でした。
モディがいかに日本を重視しているか分かりますよね。
実際日本はインフラ面でインドを支援すべく、インド最大の都市であるムンバイと商業・金融センターとして栄えるアーメダバードとの間を結ぶ、インド初となる新幹線を現在整備しています。
アーメダバードと商都ムンバイの約500キロを約2時間で結ぶ日本式新幹線
この高速鉄道が完成すれば、アーメダバードとインドの最大商都ムンバイ間の505km(東京大阪間と同じくらい)を在来線の約1/3の約2時間で結ぶことが出来ます。
2017年には一部が着工し2023年には開業を目指していましたが、一部報道によると開業が遅れる見込みだそうです。
(筆者の仕事上、とある日本を代表する素材メーカーの担当者と、インドの新幹線のことで話す機会がありました。聞くところによると現場レベルでは商習慣が日本と違いすぎて話が全然前に進まないらしいです。そりゃそうだよね…)
また日本は国際協力機構(JICA)を通じ2018年9月28日デリーにて、新幹線建設にかかる約900億円の円借契約に調印しました。
金利はなんと驚愕の0.1%!
マイホームを買った人ならこれがどれだけ安い金利か分かると思います。
それだけ日本政府がインドでの新幹線受注に本気だったいう証拠です。
米印海上共同訓練「マラバール」に日本を招待
2015年にモディは米印共同海上訓練「マラバール」に日本を招待することを決めました。
マラバールというのはベンガル湾で行われるインド・アメリカ海軍の戦争など有事があった場合を想定した共同訓練です。
実はこの決定、インド国内でも反発がかなりありました。
なぜか?ある国を刺激するからなんですが、どこか分かりますか?
ヒントはアジア内のアメリカの敵です。
もう一カ国しかないですよね。🇨🇳
中国との関係
モディが首相になってから二番目に訪問した国は日本でしたね。
では一番最初に訪問した国はどこでしょう。
この流れで行けば…中国?
違います!ブータンです(笑)
この流れで行けば完全に中国でしたが、ブータンを首相になってから一番最初に訪問しています。
なぜブータンを一番最初の訪問国に選んだのか?
世界一幸福な国として知られるブータン。
2011年の東日本大震災が発生して間もない頃、ワンチュク国王夫妻が日本に国賓として来日したことを覚えている方も多いのではないでしょうか。
地図を見て下さい。
ブータンはインドと中国の間に挟まれているとても小さな国です。
インドとの関係が強く、政治・経済・防衛全ての面でインドに依存しています。
インドにとってもブータンは中国との間の緩衝的な役割を果たしているとても重要な隣接国です。
モディにとっては最初にブータンを訪問しておくことで中国を牽制しておきたいという狙いがありました。
というのも実はインド、中国と戦争をした過去があります。
中印戦争(1962年)
1962年10月、中国軍がいきなり国境線を超えてインドに攻め込んできました。
不意打ちをくらったインドは中国軍に大敗。
それ以来アクサイ・チンを中国に実効支配されたままです。
(領土問題で中国と揉めているのは日本だけではありません。)
そのような過去の経緯もあって、インドはいつ南下してくるか分からない中国を警戒し、常に北方を警戒するようになります。
ブータンと連携を強化しているのもそのためです。
紛争は今も続いている
日本じゃあまりニュースになりませんが、インドと中国は未確定の国境問題を巡ってずーっと対立したままです。
2020年の6月にはインド・カシミール地方のラダックでインド兵20人が死亡する衝突が発生しています。
(本当は中国以上にパキスタンと揉めてるんですが、インドとパキスタンというテーマでは別記事数本が書けるくらいのボリュームがあるのでそれはまた追々…。)
真珠の首飾りを警戒するインド
中国には一帯一路構想という壮大な野望があります。
中国の習近平国家主席が2013年から提唱している中国からヨーロッパまでを結ぶ巨大な経済圏を作ろうという構想です。
現代版シルクロードなんて言われたりしています。
その海のシルクロードにあたるのが真珠の首飾りと言われている通商ラインなのですが、ご覧の通りアラビア海、モルディブ、ベンガル湾をぐるっとしています。
いやいや…
ワシのテリトリーで何やろうとしてくれとるんや…
モディにしてみればモルディブやスリランカなどの近隣国を取り込もうとしている習近平の動きはさぞ気持ち悪いに違いありません。
ましてやインドは1945年までイギリスに支配されていた歴史を忘れていません。
日米に加えてインドも一帯一路構想の協力文書に署名しておらず、中国(習近平)の覇権主義丸出しの動向に警戒心をあらわにしています。
アメリカとの関係
中国を警戒しているってことは、
アメリカとは仲が良いんじゃないの?
そういうわけでもないんだなーこれが(笑)
「敵の敵は味方」とはよく言ったものですが、インドの場合アメリカとベッタリかと言えばそういうわけでもありません。
そこがインドの国際外交上よく分からないポジショニングであり、傍から見れば先行きが見通せないところなんですね。
例えばトランプ政権時代の2019年、モディはアメリカに対して260億円規模の追加輸入関税措置を取っています。
これはアメリカの鉄鋼やアルミニウムの輸入製品に対する追加関税への対抗措置なんですが、当時のトランプはとにかく貿易赤字解消に躍起になっていました。
また自国の雇用を守る名目で、インド人のIT技術者向けの米就労ビザ「H-1B」の発行を厳格化しており、トランプ政権時代のアメリカとインドは仲が良かったかと言えば一概にそうは言えません。
ロシアから地対空ミサイルS-400を導入
ロシアとアメリカの関係が良くないのは東西冷戦もあったので何となく分かると思います。
しかしそれだけではなく敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)というのがあるんです。
ざっくり言うとこんな感じ。
ロシアから兵器買ったら
インド制裁しちゃうヨ?
アメリカの敵から兵器買っちゃう奴はけしからんという何ともアメリカらしい傲慢な理屈ですよね(笑)
しかしこれに対してインドは…
アメリカが何て言おうと関係ねーし…
こういう姿勢を示しています。
インドに強気に出られて困ったのは逆にアメリカ。
アメリカにとってインドは対中国という意味でも中央アジアでは頼りにしているパートナーです。
そのインドとの関係に亀裂が入るような制裁措置を本当に下すのか?
今後のアメリカとインドの関係は、対中国また資本主義VS共産主義という意味でも今後の動向が注目されます。
おわりに(まとめ)
いかがだったでしょうか?
前後編に亘ってモディの記事を書いてきました。
下位カーストの貧しい家の出身で、
雑用から叩き上げで政治家になり、
グジャラートの奇跡と言われる経済成長を成し遂げ、
圧倒的な国民人気と実績を引っさげてインド首相になったモディ。
首相になってからも
ある日突然高額紙幣を廃止して国民をパニックにしたり、
インドの全世帯にトイレを設置します!と宣言して驚かせたり、
日本とは新幹線導入など支援関係があり関係は良好なものの、
中国とは未確定の国境問題など緊張関係にあり、
アメリカとも付かず離れずの微妙な関係です。
モディのインドというフィルターを通して世界を見渡してみると、
また少し違った世界が見えてくるのではないでしょうか?
今後もモディの動向に注目していきます!
参考書籍
ではまたっ!
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